認知症高齢者を抱える家族とのかかわりから感じた家族の絆
とある女性のデイケアへの受け入れ
私は以前、介護老人保健施設のデイケアで介護職員として勤務していました。私が勤務していたデイケアでは、基本的には認知症高齢者の受け入れはお断りしていました。ただし、家族が介護疲れしているなどのやむを得ない事情によっては受け入れていました。
そんな時、新規の利用者としてある女性(Aさん)を受け入れることになりました。
この女性利用者(60代半ば)Aさんは、ご主人(60代後半)と自宅に二人暮らしで、娘さんが車で2~3時間の距離に嫁がれていて、頼れる親戚もいないという状況でした。旦那さんは、現在も会社員として忙しく働いていて、仕事に行くときに奥さんが心配ということで、デイケアを申し込まれたということでした。
アルツハイマー型認知症の負担を減らしたい
この女性利用者は、アルツハイマー型認知症と診断されていました。食事は、自分で何とか食べれるけれど、排泄に関しては尿便意がほぼないために介助が必要ということでした。
この話を聞いたときに、ご主人は会社員として働いているのにその他に奥さんの介助もしなければならないということで、心身に相当な負担がかかっているのではないだろうかと、心配になりました。
そして、デイケアの利用が開始になり、ご主人の介護の負担は軽減されていた様子でした。利用開始から3か月後のカンファレンスでは、ご主人に対してデイケア職員からの意見として提案させていただきました。
「この先、認知症が進行していくために、ご主人が共倒れしないかが心配です。将来的には、グループホームなどの施設に入所を検討してはいかがですか。」
主人の涙
しかし、ご主人は現時点ではと話しながら、涙ながらに自分の素直な気持ちをお話ししていただきました。
「妻をどこかの施設に入れることは考えておりません。みなさんが、わたしの身体のことを心配してくださるお気持ちはとても嬉しいですし、感謝の気持ちでいっぱいです。
しかし、わたしは妻のことを愛しているので、どこか施設に入れることは考えていないのです。こんな風になっても、わたしの最愛の妻ですから。
確かに、毎日大変でみなさんの提案の通りにしたい気持ちもあります。いっそのこと、その提案にすがりつきたいと思う気持ちもあるのです。しかし、わたしは妻を愛しています。」
カンファレンスに参加していた関係職種は、みんな涙をこらえていました。カンファレンスの結果として、引き続きデイケアの利用は継続となりました。
認知症の症状の進行が悪化して入院、そして・・・
Aさんはデイケアの利用を継続していくなかで、少しずつ坂道を転がるように認知症が進行して、身体の状態は悪化していきました。
症状も異食行為や独語、草むしりをするような行為などが見られるようになりました。お風呂なども強い拒否がみられるようになりました。食事でも誤嚥がみられることが少しずつ増えてきて、介助も大変になってきました。送迎の際に、ご主人の顔に疲労感が顕著にみられるようになったのもこの時です。
そんな時、Aさんが誤嚥性肺炎で入院することになりました。入院先の病院では、手足を縛られて食事は口から食べられないということから、経管栄養になったそうです。人間は口から食べられなくなると、あっという間に衰えていくことが多いのですが、Aさんも入院してから3か月後に亡くなってしまいました。
送迎の帰りにAさんのご自宅にお線香をあげさせていただきに寄らせていただいたとき、ご主人の方がとても小さく感じられました。
認知症になっても家族との絆はケアしたい
この経験があってから、わたしは今よりも利用者と家族に寄り添ってケアを提供させていただきたいという思いが強くなりました。もっと認知症の方を支えていかなければと思う毎日です。
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